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ふと微かな気配を感じて、手元のスマホから顔を上げた。
目の前をひらひらとアゲハ蝶が通り過ぎていく。
アゲハ蝶が赤いツツジの花に留まった。
ふわりふわりと羽ばたきながら蜜を吸っている。

———あぁもうそんな季節なんだ。
赤い花を認識して、ほんの少しの懐かしさを覚える。
遠くで遊んでいるこどもの声も聞こえ、ますます懐かしい気持ちが溢れた。


周りの風景が目に入らなくなったのは、いつの頃からだっただろうか。
“目に入らなくなった”というよりも、“目に入れなくなった”の方が正しいかもしれないが。
自分用のスマホを持ってから、画面ばかり見て周囲を見なくなった。


———昔、よくツツジの蜜吸ってたなぁ。
引っ越してくる前に住んでいた所で、よく遊んでいた幼馴染を思い出す。
ツツジの花をちぎっては蜜を吸い、あま〜い!とはしゃいでいた。


引っ越す時、お互いにまた遊ぼうねと約束したのに、いつの間にか果たされないまま時が過ぎている。
———こどもの頃にはスマホとかなかったしなぁ……。
最近のこども達のように、小さい頃からスマホを与えられていたら、自分たちの関係も変わっていたのだろうか。

なんとなく感傷的な気分に浸りながら、スマホのロックを解除する。
———どうしてこんな気持ちになるんだろう。
胸の違和感を忘れたい。
インターネットの世界に戻るために、SNSを開こうと指を伸ばす。


しかし押しきる前に、こども達のはしゃぎ声が耳に届いた。
「この花のみつ、あまいよ!」
「ほんとだ!おいしいね」

———いつの時代も、ツツジの蜜は吸いたくなるものなんだな。
なんとなくツツジの花を手にとり、軽く引っ張る。
ぷちっという微かな音と共に、赤いツツジの花がころんと手の中に落ちた。
そっと口に咥えると甘い味がひろがる。


ツツジの味と共に、小さな幼馴染の笑顔をはっきりと思い出す。
———甘いなぁ。

この蜜の甘さに、初恋と名付けた。

『蜜』